とりぶう の 宮古島日記

宮古島移住者の生活。いろいろなことがあるけど、基本的に楽しい方向で生きていく方針です。夫しかちくと認知症お義母さんとの3人暮らし。

魔法の花瓶

ショートショート魔法の花瓶シリーズ『頭のいい高校生』

    『頭のいい高校生』


はあはあはあはあはあ、はあはあ、はあ、はあ、はあ・・・・

「はーっ、もうダメだっ!」

マラソン考えたやつ、マジ、頭悪い。

ただ走るだけなんてバカだ。バカのやることだ。

娯楽のない20世紀ならまだしも、なんで21世紀になってこんなことやる必要がある?

だいたい、これだれが楽しいんだよ?

見てるの楽しいか?これ見てて楽しいっていうやつ、マジ、頭悪い。

でもいちばん頭悪いのはうちの高校。

なんでオレ進級させねーなんていいやがるんだ。

そりゃあ、体育ほとんど休んでテストも最悪だけど。

数学と物理。

学年トップじゃねーかよ。

そんなオレに、マラソンの追試に参加しないと留年させると脅すとは、いい度胸だよ。

でもよ。

留年したら、オレの経歴に傷がつくじゃん。

体育休んで留年なんて、かっこ悪いじゃん。

てか、小山のやつなんか、オレよりもずっと運動神経悪いくせに、マラソンもビリだったくせに、進級できるってありえないじゃん。

もしオレが留年したら小山が数学トップなんて、ちょっと待てって話。

しかし、あと何キロだ?

だいたい21世紀マラソン大会だから21キロ走るって思いついたやつ、マジ頭悪い。

文武両道なんて、進学校のやることじゃねーよ。

あと17キロ?

やべえ。まだ4キロしか走ってないのかよ。もうだれも見えねーよ。




「高校生よ。つらそうじゃのう」

は?だれだよ、じーさん?

なにそのきたねー花瓶。

え?いらねーよ。

え・・・・・・マジッ!?

って、これ魔法の花瓶じゃん!

魔人が入ってるやつじゃん!

ラッキー!これで走らなくてすむわ。

「ありがとうございます!ボク、がんばります!」

へ、へーん。

神はオレを見捨てなかったよ。

な?

頭の悪いやつは、しゃかりき走って行っちまってさ。

バカだよね~。さっそく完走させてもらおう。

・・・ちょっと待てよ。

『完走=乾燥』なんて聞き間違いも考えられる。

ここで頭悪いやつは失敗すんだよな。

とりあえずさ、オレは進級できたらいいんだよ。

それもこんなばかばかしいマラソンを走らないで。

「えへん、魔人さん。オレ、マラソンを走らないで、進級したいんです!
どうかよろしくお願いします!」

お、花瓶が揺れた。

うわっ、うわっ、どっひゃー!

マジでこんな大男出て来んだな。

「お安い御用です、ご主人さま!」

うわー、ご主人さまだって。

いい気分!頼むよ、頼むよ、魔人君!

え、ちょっとどこ連れてくんだよ?

なんだよここ、医者?

おい、先生にらんでるってば。

そんなあからさまなやり方じゃなくって、魔人なんだからさ、もっと魔法的な何かで先生の目をごまかすとかやってくれよ。

「さあーあ、ここはよくきくそうですよ~。肩こり、腰痛、足のコリにもいいはずです。

しっかり鍼灸してもらってくださいね!

これであなたのたったひとつの願いは叶えられました。よかったですね、ご主人様!

人生もマラソンですよ、ファイト~!」
 

「ちょ、・・・待てよっ!鍼灸ってなんだよ!

ふつう、高校生見てそっちは考えねーだろうが!

おいっ、こらっ、どこ行く!

もうっ、おまえがいちばん頭悪いよ、魔人~!!もどってこーい!」



キャッチボールで筋肉痛

ショートショート『無人島でのお願い』

(679)

「明日流れてくる汚い花瓶。

それには たったひとつの願いごとを叶えてくれる 大男の魔人が はいっておるじゃろう・・・・」

老人は笑いながら消えていった。

「・・・はっ!・・・はあ、夢か・・・」

男は起き上がった。

「無人島生活も今日で7日・・・」

男はテントから出て、棒切れを1本、砂の上に立てる。

そこには7本の棒切れが立っている。

それは男がこの島で過ごした日数だ。

「家に帰りてえ・・・日本に帰りてえよ・・・」

男は若干 しぼんできたおなかを 両手でさすりながら泣きそうな声で言った。

ダイエットのため、太平洋にうかぶこの無人島に来た。

『無人島ダイエット』という本を出版しようともくろんだのだ。

出版社に何度もかけあって、ようやく最低限の取材費を捻出した。

150キロの巨体を無人島生活で半分にするという企画だった。

期限は1ヵ月。

1ヵ月経つまでむかえには来ないでほしいと、かたく言っておいた。

しかし、男はすでに挫折しかかっていた。

通信機器はない。

あるのはヘルスメーターと紙とエンピツ。最低限の食料。

「だいたい、こんなしんどいことに耐えられるくらいだったら、太ってないんだよ」

ぶつぶつ言いながら、男は海に向かう。

食料となる魚をとるために網をしかけてあるのだ。

「ああ、帰りてえよ。帰って思いっきりラーメン食いたい。

なんでこんな企画出しちまったんだろう?

ああ、オレはバカだ。

そもそも太っててどこが悪いってんだ?

ああ魚なんか もううんざりだ!」

男は力まかせに網を引っぱる。

網には小魚が数匹と汚い花瓶が入っていた。

「なんだこれ?

・・・こ、これ、まさか、か、花瓶!

マジかよ!あれって、正夢だったんだ!

やった、これで帰れる!日本に戻れるぞー!」

男はガッツポーズもそこそこに、花瓶に向かって言った。

「魔人さん、お願いだ、すぐに日本に戻して欲しいんだ!頼みます!」

花瓶はちょっと揺れて、中からしゅるしゅるっと大男の魔人があらわれた。

「は~い、ご主人様!すぐに日本に戻して欲しいんですね?お安い御用!」

魔人はそういうと大またで歩きだした。

「ありがとう!ありがとう!オレ、こんなうれしいことないよ!

日本に戻ったら、まじめにきちんとダイエットするよ。

こんなキワモノっぽいやり方じゃなくってさ。感謝するよ、魔人さん!」

男は涙ぐみながら、魔人のうしろをついてゆく。

魔人は男のテントの横まで来るとしゃがみこんだ。

「今、棒は7本立ってますね。じゃあ5本抜いてっと。

さ~あ、これで2本に戻りましたよ!

あなたのたったひとつの願いは叶えられました。よかったですね、ご主人様!

まじめにダイエットがんばってくださいね~!」

魔人はうれしそうにそういうと、しゅるしゅるっと花瓶の中に戻っていった。

「・・・えええ~~!!2本って、うそだろ?うそだろ?ちょっと待ってくれよ!

きたねーぞ、魔人!このやろ~!あああ~~・・・頼む、頼む、もう一回チャンスをくれよ~!!」

魔人チャンス

(621)

『わたしも通販ライフです』

見覚えのある顔が新聞のちらしで笑っている。

美恵子はおもしろくなさそうにちらしを眺める。写っているのは加藤千枝。美恵子の同級生。

「わたしのほうが才能あったのに。」

美恵子は何十回となく思ったことをあらためて口に出してみる。

美恵子と千枝は吹奏楽部だった。パートは同じサックス。実力は美恵子のほうが上だったと今でも思っている。顧問の先生は『技術の美恵子、音色の千枝』とふたりを評した。

ふたりとも吹奏楽がさかんな私立の高校に進学した。

音大に進学したいというと、美恵子の親は反対した。もともと高校の学費だって厳しいのに。

音大の学費なんてとんでもない。自宅から通える音大がないから下宿代だってかかる。

やむなく美恵子は地元の短大に行った後就職し、4年後結婚した。

千枝もともとは恵まれていた。叔母さんはピアニスト、お母さんは音楽の先生。おじいさんは作曲家だと聞いた。千枝が音大の大学院に進んだころから、連絡もとらなくなった。

美恵子が結婚して3年ほどたったとき、テレビで千枝の顔を見た。有名なコンクールで優勝したという。美恵子は歯ぎしりした。わたしのほうが才能あったのに。チャンスがなかったのだ。

千枝の躍進は続いた。雅楽とのコラボレーションが話題を呼び、一躍有名音楽家となった。

千枝はラッキーだ。中学のときから、練習嫌いだったのに。とくに努力もせず、しあわせを手に入れてる。そう思えてしかたなかった。

美恵子はあのときどうして無理をしてでも音大に行かなかったのか、と悔やんでいた。夫はまじめなくらいしかとりえがなく、子どもにサックスを習わせたが続かない。

平凡がしあわせなんてだれが言ったのか。自分の才能を生かせなくて、何がしあわせか。

チャンスがなかっただけであきらめていいのか?

そう、チャンスさえあればわたしだって!

そんなとき奇妙な老人から汚い花瓶をもらった。たったひとつの願いを叶えてくれる魔人が入っているという。美恵子の目は輝いた。自分の前の大きな扉が開いた気分だった。

美恵子は花瓶を見つめて興奮しながら言った。

「お願い、魔人。チャンスをちょうだい!サックスをもう一度やりたいの!」

花瓶はすこし揺れて中からしゅるしゅるっと大男の魔人があらわれた。

「は~い、ご主人さま!どうぞ!」

魔人は一升瓶を美恵子に渡す。

「・・・なに、これ?」

「酢ですよ、酢!ご主人さまは『魔人ちゃん、酢をちょうだい』っておっしゃったので、酢!

これでたったひとつの願いはかなえられました!よかったですね、ご主人さま!」

魔人が酢を指差しながら言う。

「ああ、今日は酢豚だったからちょうどいいわ、ってなんでやねん!

わたしは『チャンス』をちょうだいって言ったの!ちょっと、帰るな、待ってよ!チャンスをちょうだい!

平凡な人生で終わりたくないのよ!こら~、魔人~!!

だれがあんたのこと魔人ちゃんなんて言うのよ~~!」
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結婚披露宴ののスピーチお願いします。

(590)

園田は手のひらの汗をしきりハンカチにおしつけている。もうすぐだ、もうすぐだ。

頭からもつぎつぎにあたらしい汗がながれる。ハンカチはもうずいぶん湿気をふくんでいる。

「大丈夫か?」

隣の細川が聞く。

「あ、ああ。だめだ、やっぱり細川、おまえやってくれよ。」

園田は泣きそうな顔になって懇願する。

「なに言ってんだよ、いまさら。健太はおまえを指名したんだよ。だーいじょうぶ。客なんてみんな聞いてないって。ほら、みんな好き勝手にしゃべってるだろ?」

細川がまわりを指差しながら言う。今日は親友健太の結婚式。友人代表のスピーチを頼まれた園田は極度の緊張の中にいた。

むかしから人前がひどく苦手だ。園田はこういう場面でいつも失敗していたことを思い出す。

小学校の参観日だって、中学校の読書感想文発表だって、緊張のあまり声がうらがえって笑われたり、どもってなかなか発表できなかったり、いつもさんざんだった。

しかし小学校から高校までずっといっしょだった健太にぜひと頼まれたらいやとはいえなかった。

園田はじっとしていられなくて席を立った。披露宴がはじまってからもう3回目だ。

トイレの鏡に顔をうつして、ていねいに汗をふきとる。そのとき。へんな老人がやってきて、きたない花瓶をさしだした。

たったひとつの願いごとをかなえてくれる魔人が入っているという。

なんという幸運!これでスピーチを気楽に行うことができる。

園田は急にこころが軽くなり、花瓶をジャケットのかげにかくして席に戻った。

「おそかったじゃないか。次おまえだぞ。」

細川がひじでつつく。

「ああ、わかってる。ちょっと落ち着けたくってさ。」

ふいに拍手がおこり、前の人のスピーチが終わったのだと気付く。さあ、いよいよだ。園田はジャケットのかげから花瓶を取り出す。

「魔人さん、お願いします」と小声でいいかけたとき、

「がんばれよ!」

細川が園田の背中を強くたたく。その拍子に花瓶が手からすべりおち、じゅうたんの上に落ちる。

「ちょっ、たたかないでくれよ!あぶないなあ、もう!」

園田は花瓶を拾いながらおもわず細川をにらむ。そのとき手の中で花瓶がゆれて、中からしゅるしゅるっと大男の魔人があらわれる。

「わっかりました。たたきません。みなさ~ん、お静かに!シ~ッ!」

魔人が拍手している人たちにむかって、人差し指をたてて静かにするように言う。

式場じゅうが何事かとあっけにとられて静まりかえる。

「これからご主人様のスピーチです!どうか手をたたかないでごらんくださいね~!

さあ、どうぞ、わがご主人様!今日のために考えてきスピーチ。思いのたけを存分にぶつけてくださいね。

これであなたのたったひとつの願いはかなえられました。すばらしいスピーチを~!」

魔人はそういうと花瓶のなかに帰っていった。みんなの視線がいっせいに園田にふりそそぐ。

「ちょ、魔人、待ってくれ!待ってくれ!あのみなさん、あの、えー、ちょっと待ってくれよー!!」
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魔人・サッカー少年

(545)

あああ~

一斉にため息がもれる。

「ドンマイ!」

同じフォワードの森川が声をかける。

またPKをはずした。ここでオレが決めていれば勝ってたのに・・・。

そこで目がさめた。やばいな。またこの夢を見た。

この夢を見て、このあいだの試合でほんとにPKはずしたんだ。

ケンタはのろのろと起き上がり身支度をはじめる。

『ここ一番で気持ちが弱いフォワード』

口の悪いディフェンダーのミノルがいつも茶化す。

「そんなこと、自分がいちばんよくわかってるよ。でもどうしようもないんだ。」

試合会場へ向かいながらケンタは思わずつぶやいていた。

そのとき、不思議な老人が汚い花瓶をやると近づいてきた。なんでもたったひとつの願いを叶えてくれる魔人が入っているという。

ケンタの顔がかがやいた。これでPKをはずさなくてすむ!

こんなのを使うのはフェアじゃない?いや、万が一のそなえっていうものがあってもいいじゃないか。

今日の相手は強豪の南中だ。これくらいのハンデ、あっても当然だよ。

ケンタは興奮して試合会場に入った。試合がはじまる。予想通り南中は強い。あっという間に1点入れられた。

しかし味方はよく守って後半になっても1-0のままだった。もうすぐ試合は終わるが、相手の守りは堅く、ケンタはなかなか突破できない。

こうなったらファウルを誘ってPKに持ち込むか・・・。

ケンタはチャンスを待っていた。そして首尾よく相手にファウルを与えることに成功した。

よし。ここからがいつものオレとはちがうんだ。ケンタは深呼吸して花瓶がおいてあるベンチに向かってつぶやいた。

「どうか、どうかこのPK、決めさせてくれ。頼む!」

ホイッスルが鳴る。同時に花瓶のなかから大男の魔人があらわれる。それがちょうどボールを蹴ろうとしていたケンタの目に入り、ケンタは蹴りそこなってしまう。

「あああ~・・・」

まわりからため息がもれる。ボールはゴールを大きくそれて後方に転がっていった。

「いやあ~、残念でした、ご主人さま。ドンマイ!」

魔人が手をたたきながら近づいてくる。

「おい、おまえのせいでPKはずしたじゃねーかよ!たったひとつの願い、聞いてくれるんじゃなかったのか!」

「ああ、それはもう叶えて差し上げましたよ~。

『(P)パッとしない(K)キック』!びしっと決まりましたね。

あるいは『(P)ポイントできない(K)キック』。

あ、(P)パンツも(K)食いこんでますよ~。

願いが叶ってよかったですね、ご主人さま!では~。」

魔人はそういうと花瓶の中に戻って行った。

「そんなPK~!?おい、どーしてくれんだこの空気!魔人、もどってこ~い!」







(追記)

みなさま、いつもご訪問およびコメントありがとうございます!

暑い中、いろんな『わたしもわかる!』というコメントにはげまされて、家事をやっております。
でも家事って、あたまの中を無心にできていいですよね。
わたしは家事をやってるときにネタを考えることが多いです。
で、思いついたらすぐネタ帳に書こうとパソコンの机にすわるのですが、そのついでにちょっとネットのチェック・・・なんてやってるので、今日も家事は手抜きです。わはははは。(笑ってる場合じゃない!)

ところで、さすらいの阿呆鳥さん、オーストラリア旅行記なんですが、じつはずいぶん前の話なんです。子どもがうまれる前の話。それを今、う~ん、どうだったっけな~と思い出しながら書いています。
いま、オーストラリアに行ける余裕は皆無です。
思い出だけで生きてる女、とりぶうです。

さて明日のひとりごとは、久々に登場のとなりのおじいネタ。
まったく、いつもなにかとやらかしてくれる人です。
ぜひ読んでくださいね!

ではまた明日もお待ちしてますね!
とりぶう
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